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大阪地方裁判所 昭和45年(行ウ)120号 判決

尼崎市水堂町一丁目一一の一七

原告

阪本こはる

同所

原告

阪本良三郎

同所

原告

阪本克己

尼崎市水堂字鍬田三九〇番地の四

原告

阪本昌行

尼崎市森字宮田一二五番地

原告

梅井明子

尼崎市水堂字戌井五六番地の一

原告

渡部笑子

尼崎市水堂字鍬田三五九番地

原告

島田啓子

右七名訴訟代理人弁護士

弓場晴男

尼崎市西難波一丁目八番地の一

被告

尼崎税務署長

森崎勝雄

右指定代理人検事

河原和郎

同法務事務官

西村省三

同大蔵事務官

水口由光

米川盛夫

右当事者間の決定取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1  被告が訴外阪本孝太郎の昭和三八年分の所得税について昭和四三年一一月一四日付でした更正処分および重加算税の賦課決定のうち総所得金額を六一一万九〇三七円として計算した金額を超える部分を取消す。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が訴外阪本孝太郎の昭和三八年分の所得税について昭和四三年一一月一四日付でした総所得金額を六五一万九〇三七円(ただし、裁決により一部取消された後のもの)とする更正処分のうち、三〇三万九〇三七円を超える部分および同日付でした五九万八二〇〇円(ただし、裁決により一部取消された後のもの)の重加算税の賦課決定を取消す。

2  被告が訴外阪本孝太郎の昭和三九年分の所得税について昭和四三年一一月一二日付でした一一万〇四〇〇円(ただし、裁決により一部取消された後のもの)の重加算税の賦課決定を取消す。

3  被告が訴外阪本孝太郎の昭和四一年分の所得税について昭和四三年一一月一二日付でした二四万二一〇〇円(ただし、裁決により一部取消された後のもの)の重加算税の賦課決定を取消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも訴外阪本孝太郎(以下孝太郎という。)の相続人である。

2  昭和三八年分の所得税について

(一) 孝太郎は、昭和三九年三月一二日、被告に対し昭和三八年分の所得税につき、総所得金額を七〇万三一二八円として確定申告したところ、被告は、昭和四二年一一月一四日付で総所得金額を七一二万三一〇二円(事業所得五八二万一三八〇円、不動産所得九八万五九五〇円、雑所得三一万五七七二円)と更正し、七六万二〇〇〇円の重加算税の賦課決定をし、そのころ孝太郎に通知した。

(二) 孝太郎は、右更正および決定を不服として同年一二月一四日、被告に対し、異議申立をしたが、昭和四四年三月一一日棄却され、そのころ通知を受けたので、同年四月一一日、訴外大阪国税局長に対して審査請求をしたところ、昭和四五年四月一六日、総所得金額を六五一万九〇三七円(事業所得を五二一万七三一五円とする外、更正額どおり。)、重加算税を五九万八二〇〇円とする前記更正および決定の一部取消裁決がなされ、同月二一日、原告らに送達された。

(三) しかしながら、右更正中、事業所得については三八万七三一五円と認定すべきであり、また、孝太郎は、所得税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことはないから、前記更正および決定はいずれも違法である。

3  昭和三九年分の所得税について

(一) 孝太郎は、昭和四〇年三月四日、被告に対し昭和三九年分の所得税につき、総所得金額を一二六万九四六五円として確定申告をしたが、被告の勧告に応じ、昭和四三年一〇月三一日、総所得金額を二九一万一八七四円(事業所得一七三万九一四五円、不動産所得一〇三万六七六五円、雑所得一三万五九六四円)とする修正申告をしたところ、被告は、同年一一月一二日付で一五万八四〇〇円の重加算税の賦課決定をし、そのころ孝太郎に通知した。

(二) 孝太郎は、右決定を不服として、被告に対し異議申立をしたが、昭和四四年三月一一日、棄却され、そのころ通知を受けたので、同年四月七日、訴外大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四五年四月一六日、重加算税を一一万〇四〇〇円とする前記決定の一部取消裁決がなされ、同月二一日原告らに送達された。

(三) しかしながら、孝太郎は、所得税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことはないから、右決定は違法である。

4  昭和四一年分の所得税について

(一) 孝太郎は、被告に対し昭和四一年分の所得税につき、昭和四二年二月一七日、総所得金額を一一四万五三二〇円として確定申告をし、次いで同年三月三日、総所得金額を一三三万四三六〇円として訂正の申告をしたが、被告の勧告に応じ、昭和四三年一〇月三一日、総所得金額を三八七万八二一〇円(事業所得二七三万二二五〇円、不動産所得一〇八万八七二〇円、雑所得五万七二四〇円)とする修正申告をしたところ、被告は同年一一月一二日付で二五万七一〇〇円の重加算税の賦課決定をし、そのころ孝太郎に通知した。

(二) 孝太郎は、右決定を不服として、被告に対し異議申立をしたが、昭和四四年三月一一日、棄却され、そのころ通知を受けたので、同年四月七日、訴外大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和四五年四月一六日、重加算税を二四万二一〇〇円とする前記決定の一部取消裁決がなされ、同月二一日、原告らに送達された。

(三) しかしながら、孝太郎は、所得税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことはないから、右決定は違法である。

5  よって、請求の趣旨記載の如き判決を求める。

二  請求原因に対する認否および主張

(認否)

1 請求原因第1項の事実は認める。

2 同第2ないし第4項のうち、各(一)(二)の事実は認め、各(三)の事実は否認する。

(主張)

1 昭和三八年分の所得税について

(一) 孝太郎の昭和三八年分の総所得金額は六五一万九〇三七円であり、その内訳は次のとおりである。

(1) 事業所得 五二一万七三一五円

(イ) 不動産売買による所得 四八三万円

孝太郎が昭和三八年二月ころ、自己の所有する別紙物件目録(一)記載の土地を尼崎市に売却したことによる所得であり、譲渡価額は五八六万円、取得費は一〇三万円である。なお、右売買がなされた当時、孝太郎は兵庫県知事から宅地建物取引業者の免許を受けて土地、建物の売買、その仲介を業として営んでおり、右売買もその一環として行なったものであるから、その所得は譲渡所得ではなく、事業所得である。

(ロ) 不動産売買等の仲介による所得 三八万七三一五円

(2) 不動産所得 九八万五九五〇円

(3) 雑所得 三一万五七七二円

(二) 重加算税の賦課決定をしたのは、次の理由による。

孝太郎は、前記のとおり、その所有に係る別紙物件目録(一)記載の土地を売却したが、その際、右土地の所有者が登記簿上、訴外小西金太郎となっているのを奇貨として、小西と謀り、前記収入金額に基づく所得を孝太郎の所得とせず、小西の所得であるように仮装し、小西が所得税の申告をした。従って、孝太郎は右所得のあることを隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて昭和三八年分の納税申告書を提出したのであるから、国税通則法六八条一項に該当し、同項に則り、重加算税額を算出すれば別紙(一)のとおりその金額は五九万八二〇〇円となる。

2 昭和三九年分の所得税について

重加算税の賦課決定をしたのは、次の理由による。

(一) 孝太郎は、昭和三九年七月二〇日、その所有に係る別紙物件目録(二)記載の土地を、訴外株式会社結城商店(商号変更して、現在はユーキ株式会社)に売却したが、その際、真実の売買価額は四一八万円であるのに、買主と通謀し、その価額を三一八万円であったかの如く仮装し、その仮装したところに基づいて昭和三九年分の納税申告書を提出した。

(二) 孝太郎は、同年中に尼崎市水堂字戌井五五八番所在のアパートを第三者に貸付けたことによる不動産所得があるが、その所得金額の計算に当り、必要経費として架空の借入金利息六万一三〇〇円(訴外山本隆からの借入金六九万円および訴外小西金太郎からの借入金六〇万円に対する利息)を計上し、その仮装したところに基づいて同年分の納税申告書を提出した。

(三) 右の各事実は国税通則法六八条一項に該当するので、同項に則り、重加算税額を算出すれば、別紙(二)のとおりその金額は一一万〇四〇〇円となる。

なお、孝太郎は請求原因第3項(一)記載のとおり修正申告をしているが、右申告は孝太郎において被告が所得税調査をしていることを知り、早晩更正処分のあるべきことを予知してなしたものであるから、これがために重加算税の賦課決定が違法となるものではない。

3 昭和四一年分の所得税について

重加算税の賦課決定をしたのは、次の理由による。

孝太郎は、昭和四一年一一月九日、その所有に係る別紙物件目録(三)記載の土地(昭和三八年八月二一日、訴外麻田源蔵から購入したもので、登記簿上の所有名義人は訴外小西金太郎である。)を代金八一〇万円で訴外古谷市三郎外一名に売却したが、その際、右土地の所有名義が登記簿上小西の名義となっているのを奇貨として、小西と謀り、売主を小西とする売買契約書を作成し、右収入金額に基づく所得はすべて小西の所得であるかの如く仮装して 小西が昭和四二年分の所得税の確定申告をし、孝太郎はその所得を隠ぺいして昭和四一年分の納税申告書を提出した。これは国税通則法六八条一項に該当するので、同項に則り、重加算税額を算出すれば、別紙(三)のとおり二四万二一〇〇円となる。

なお、孝太郎は請求原因第4項(一)記載のとおり修正申告をしているが、右申告は孝太郎において被告が所得税調査をしていることを知り、早晩更正処分のあるべきことを予知してなしたものであるから、これがために重加算税の賦課決定が違法となるものではない。

三  被告の主張に対する認否

1  被告の主張第1項(一)(1)(イ)のうち、孝太郎が被告主張のころその所有に係る別紙物件目録(一)記載の土地を尼崎市に売却したこと、同土地の取得費が一〇三万円であることは認めるが、譲渡価額が五八六万円であることは否認する。同土地は取得以来孝太郎および原告昌行が耕作してきたものであり、手放す意思もなかったところ、訴外京阪神急行電鉄株式会社(以下阪急電鉄という。)が付近の土地一帯の宅地開発を計画し、右土地もその一部として阪急電鉄の意を体した訴外田中喜一に売却されることとなったが、その後右計画がとりやめとなり結局尼崎市が都市計画事業のため孝太郎から買収したのであるから、孝太郎は何ら営業として売却したのではないし、また、実際、孝太郎は昭和三八年四月ころ、宅地建物取引業者の免許を受けたが、傷病による入院生活が続き、営業活動はほとんどしていない。従って、右売却益は譲渡所得として計上すべきものである。

同項(一)(1)(ロ)、(2)、(3)の各所得金額は認める。

同項(二)については、登記簿の名義人が訴外小西金太郎となっていたこと、同訴外人が右土地売却に基づく所得税の申告をし、孝太郎はこれをしなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  被告の主張第2項(一)のうち、孝太郎が被告主張のころ、その所有に係る別紙物件目録(二)記載の土地を訴外株式会社結城商店に売却したことは認めるが、その余の事実は否認する。

同項(二)のうち、孝太郎に被告主張の不動産所得があることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  被告の主張第3項のうち、孝太郎がその所有する別紙物件目録(三)記載の土地を、被告主張のころ、訴外古谷市三郎外一名に売却したこと、同土地が登記簿上、訴外小西金太郎の所有名義になっていたため、同訴外人が右土地売却に基づく所得税の申告をし、孝太郎がこれをしなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  昭和三九年分および昭和四一年分の所得税については、被告の要求に応じ、孝太郎が被告主張どおりの修正申告をしたのであるから、これに対して重加算税を賦課するのは違法である。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第九号証

2  証人小林徳治郎、同小西金太郎、原告阪本良三郎本人

3  乙第三号証の一、二、第四号証の二、第一一、第一三ないし第一五、第一七ないし第二一号証の成立は不知。乙第一六号証は原本の存在および成立をいずれも認め、乙第二二号証は署名および押捺されている印影が小西金太郎のものであることは認めるが、その余は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二号証、第三ないし第五号証の各一、二、第六ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第二九号証

2  証人結城修三、同松井三郎、同三木通武、同吉田周一、同中島章

3  甲第一ないし第八号証の成立は認め、第九号証の成立は不知。

理由

一  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、また、課税経過に関する請求原因第2ないし第4項の各(一)(二)の事実も当事者間に争いがない。

そこで、以下、課税処分の内容についてその適否を各年度別に検討する。

二  昭和三八年分の所得税について

1  被告の主張第1項のうち、(一)(1)(ロ)、(2)、(3)の各所得金額および同項(一)(1)(イ)のうち、孝太郎が被告主張のころ別紙物件目録(一)記載の土地を尼崎市に売却したこと、同土地の取得費が一〇三万円であることは当事者間に争いがない。

ところで、成立に争いのない乙第一二号証の一、第二三、第二六および第二七号証、証人三木通武の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、証人中島章の証言により真正に成立したものと認められる乙第一八ないし第二〇号証、証人吉田周一の証言により真正に成立したものと認められる乙第二一号証、小西金太郎の署名が同人のものであることは当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推認すべき乙第二二号証、証人小林徳治郎、同小西金太郎、同松井三郎、同三木通武、同吉田周一の各証言を総合すると、別紙目録(一)記載の土地を、尼崎市が買収するに至る経緯は次のとおりと認められる。

阪急電鉄は、阪急電鉄神戸線武庫荘駅付近一帯の農地を造成して宅地化することを計画し、昭和三五年七月ころ、大規模な農地買収に乗り出すこととなったが、個々の地主との接渉は、地元の有力者である訴外田中喜一に一任した。これを本件の土地についてみれば、田中は阪急電鉄の意を受けて孝太郎と売買交渉をしたところ、昭和三六年四月ころ、交渉が成立したので、権利証、印鑑証明書、委任状、譲渡承認書など売買契約書の作成、所有権移転許可申請(農地法五条)、所有権移転登記手続等に必要な一切の書類と引換えに、同月から翌月にかけて代金を孝太郎に支払った。田中は、阪急電鉄の保証のもとに、訴外尼崎市武庫農業協同組合から、同組合の組合員訴外辰己儀一の名義で借入れた金銭をもって右支払に充てていたが、本件の土地を含む一部の土地については、その後、事情があって阪急電鉄が買収を取止めたため、代わって尼崎市との間で話をすすめたところ、昭和三八年二月ころ、同市が買収することとなり、そのころ、尼崎市から尼崎武庫農業協同組合に、本件の土地の買収につき六六五万〇四六五円が払込まれて右借入金の決済がなされた。(尼崎市に所有権移転登記がなされたのは昭和三八年一〇月三日。)

そこで、右売買の代金が幾何であるかにつき検討するに、前掲乙第一八、第一九号証によれば、尼崎市武庫農業協同組合の作成した武庫荘地区買収計画書には、右金額が五四六万円である旨の記載があること、右金額は、本件の土地の地積二七三坪(前掲乙第二七号証)に坪単価二万円を乗じて算出したものであること、右の坪単価は、本件の土地とともに買収の対象となった一帯の土地のそれとほぼ同額であることが認められ、また本件土地の売却による所得について、孝太郎が所得税の申告をせず、小西金太郎がその申告をしたことは当事者間に争いがないところ、前掲乙第二三号証および証人小西金太郎の証言によれば、小西金太郎の昭和三八年分の所得税の訂正の申告書の譲渡所得欄には収入金額として五四六万円の記載があることが認められ、

以上の事情と前掲乙第二一号証とを勘案すれば、右売買代金は五四六万円であって、孝太郎は田中から同額を受取っていると認めるのが相当である。もっとも、前掲乙第一三号証には、右金額が五八六万円であったかの如き記載があるが、右事情に照らし、また、前掲乙第二一号証によって認められる前記尼崎市の支払金額六六五万〇四六五円の算出根基(尼崎市武庫農業協同組合の田中に対する代金額相当の貸金とこれに対する利息および坪当り一〇〇〇円の諸経費を合算する。)を考え併せると、右記載はにわかに措信することができない。

なお、本件は農地を宅地にするため、その所有権を移転する場合であるから、兵庫県知事の許可が必要であるところ(農地法五条)、前掲乙第二七号証および証人三木通武の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によれば、右許可は昭和三八年六月一八日になされたものと認められるのであり、このとき孝太郎の受取った右代金について、これを受取るべき権利が確定したというべきであるから、同年において収入すべき金額として計上するのが相当である。

次に、本件の土地の売却により得た収入が譲渡所得であるか、それとも事業所得であるかにつき判断するに、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、孝太郎は兵庫県知事の免許を受けて、昭和三三年七月、宅地建物取引業を創業して以来、昭和四四年まで右免許を更新していたことが認められ、殊に、前掲乙第二一号証によると、阪急電鉄の武庫荘駅付近農地の大規模買収に当って、孝太郎は地元不動産屋の一人として相当件数の農地を田中に紹介、斡旋し、昭和三五年から昭和三六年にかけて、同人から総額約四〇〇〇万円の支払いを受けていたことが認められるのであり、本件の土地の売買も、前掲乙第二七号証により明らかな如く、その取得の時期が昭和三五年七月ころであって、阪急電鉄の買収着手時期と相接していることや、保有期間が実質的には僅か一〇ケ月ほどであることに鑑みれば、右事業の一環として行なったものと考えるのが合理的であるから、これを事業所得と認定すべきである。

以上によれば、事業所得金額は四八一万七三一五円となり、孝太郎の昭和三八年分の総所得金額は六一一万九〇三七円である。

2  ところで、本件の土地を売却したことによる所得について、孝太郎が、昭和三九年三月一二日被告に提出した昭和三八年分所得税の確定申告書にこれを記載せず、小西金太郎がその所得税の申告をしたことは、当事者間に争いがない。そして成立に争いのない乙第一号証の二および証人小西金太郎の証言によれば、小西の右所得税の申告は昭和三九年三月一〇日昭和三八年分所得税の確定申告書を被告に提出してしたものであること、右申告書は孝太郎の指示により作成されたものであることが認められる。したがって孝太郎は本件の土地の売却による利益が小西に帰属したかの如く仮装して自己に帰属したことを隠ぺいし、これに基づいて前記確定申告書を提出したものといわざるを得ない。

3  そうすると、孝太郎の昭和三八年分の所得税について被告のした更正処分および重加算税の賦課決定は、総所得金額を六一一万九〇三七円として計算した金額の限度で正当であるが、これを超える部分は違法である。

三  昭和三九年分の所得税について

1  孝太郎が、昭和三九年七月二〇日ころ、その所有に係る別紙物件目録(二)記載の土地を訴外株式会社結城商店に売却したことは当事者間に争いがないので、その売却代金について検討するに、証人結城修三の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、二、第一五号証および証人結城修三の証言によれば、右代金は実際には四一八万円であり、同金額が株式会社結城商店より孝太郎に支払われたにも拘わらず、孝太郎の申出により右金額を一〇〇万円圧縮し、恰も三一八万円で売買契約が成立したかの如き契約書をそのころ作成したことを認めることができる。而して、成立に争いのない乙第二号証によれば、孝太郎は昭和三九年分の所得税の確定申告に当り、譲渡所得として三一八万円の収入金額を計上しているのみであることが認められる。

そうすると、孝太郎は所得額計算の基礎となる売買代金の額を仮装し、その仮装したところに基づいて所得税の確定申告をしたものといわなければならない。

2  次に、孝太郎には昭和三九年中に尼崎市水堂字戌井五五八番所在のアパートを第三者に貸付けたことによる不動産所得があることは、当事者間に争いがない。そして前掲乙第二号証、成立に争いのない乙第四号証の一、第二四、第二五号証、証人松井三郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の二、第一一号証および証人小西金太郎、同松井三郎の各証言によれば、被告が孝太郎に対して昭和三九年におけるアパートの賃貸状況を照会したところ、孝太郎は右アパートの賃貸につき訴外山本隆から六九万円、小西金太郎から六〇万円の借入金があり、その支払利子六万一三〇〇円が不動産所得の必要経費である旨書面をもって昭和四〇年一月一一日被告に回答したこと、しかし山本隆の母きくのは昭和三七年ころ孝太郎に五〇万円融資したものの、昭和三八年中に金額返済を受けており、昭和三九年当時隆は孝太郎に金銭を貸付けていないし、また、小西金太郎には当時六〇万円もの金員を他に融資する経済的余裕は無く、孝太郎にも貸付けていなかったこと、ところが孝太郎が昭和四〇年三月四日被告に提出した昭和三九年分の所得税の確定申告書には、不動産所得についての必要経費として七九万一五三五円が計上されていることが認められる。

以上の事実と前掲乙第四号証の一とを考えあわせれば、孝太郎には昭和三九年度において山本、小西からの借入金はなく、従ってその利子の支払もなかったのに、それがあったように仮装し、これに基づいて所得税の確定申告をしたものといわざるを得ない。

3  原告らは、孝太郎は被告の勧めにより、被告主張どおりの修正申告をしたのであるから、重加算税を課するのは違法である旨主張するが、証人小林徳治郎の証言によれば、右修正申告をした昭和四三年一〇月三一日には、孝太郎は、被告が孝太郎の当該年分の所得税調査に着手していることを知り、若し、修正申告をしなければ、早晩被告が更正処分をするであろうことを十分認識していたものと認められるから、孝太郎が修正申告をしたからといって、重加算税の賦課を免れることはできない(国税通則法六八条一項、六五条三項)。

したがって昭和三九年分所得税についての重加算税の賦課決定には、原告ら主張の如き違法はない。

四  昭和四一年分の所得税について

孝太郎が、その所有する別紙物件目録(三)記載の土地を、昭和四一年一一月九日、訴外古谷市三郎外一名に売却したこと、これによる所得について、孝太郎が昭和四二年二月一七日被告に提出した昭和四一年分所得税の確定申告書にも、昭和四二年三月三日提出した訂正の申告書にも、これを記載しなかったことは、当事者間に争いがない。そして前掲乙第二七号証、成立に争いのない乙第五号証の一、第二九号証、原本の存在およびその成立に争いのない乙第一六号証、証人小西金太郎の証言および弁論の全趣旨によれば、孝太郎は別紙目録(一)記載の土地の売却代金を資金として昭和三八年八月頃別紙目録(三)記載の土地を買受けたが、その所有権取得登記は(一)の土地についてと同様小西金太郎の名義でしたこと、孝太郎は昭和四一年一一月(三)の土地を古谷らに売却した際、小西と相談のうえ、売主を小西とする不動産売買契約証書を作成するとともに、買主から受取った売買代金を住友銀行立花支店の小西名義の預金口座に預け入れたこと、(三)の土地の売却による所得につき小西が昭和四二年分所得税の確定申告書を昭和四三年三月一二日被告に提出したが、右申告書の作成提出は孝太郎の指示によるものであることが認められる。以上の事実と前記二2の事実をあわせ考えると、孝太郎は(三)の土地の売却による収入が小西に帰属するかの如く仮装して自己に帰属することを隠ぺいし、これに基づいて前記昭和四一年分所得税の確定申告書を提出したものとみるのが相当である。

なお、原告らは、孝太郎は被告の勧めにより、被告主張どおりの修正申告をしたのであるから、重加算税を課するのは違法である旨主張するが、前述したところと同様の理由により、右主張は失当である。

したがって昭和四一年分所得税についての重加算税の賦課決定には原告ら主張の如き違法はない。

五  以上のところにより、原告らの請求のうち、被告のした昭和三八年分の所得税についての更正処分および重加算税の賦課決定は、総所得金額を六一一万九〇三七円として計算した金額を超える部分にかぎり違法であるから取消し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 増井和男 裁判官 若原正樹)

物件目録

(一) 尼崎市水堂字申田 一七〇番

田 九〇二平方メートル

(二) 尼崎市七松町一丁目三一一番

宅地 六〇坪

(三) 尼崎市水堂字神楽田 三二番

田 五畝三歩

(一) 昭和38年分の所得税の重加算税の計算根基

〈省略〉

重加算税 1,994,000×30%=598,200

(二) 昭和39年分の所得税の重加算税の計算根基

〈省略〉

重加算税 368,000×30%=110,400

(三) 昭和41年分の所得税の重加算税の計算根基

〈省略〉

重加算税 807,000×30%=242,100

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